合成化学や化学繊維事業でスタートし、事業ポートフォリオを積極的に転換することで時代のニーズに応え続けてきた旭化成。2022年に創業100周年を迎えた同社は、次の100年に向けた挑戦の礎として、一人ひとりの業務や志向性に応じて学習しながら仲間と共に成長することができる学びのプラットフォームの全社展開を進めています。「CLAP(Co-Learning Adventure Place/クラップ)」と名付けたこのプラットフォームを、旭化成はコーナーストーン・ラーニングCSXで構築しました。社外の学習コンテンツとの柔軟な連携やお薦めを共有できるコミュニケーション機能などを備えたCLAPにより、同社内では学びの輪が徐々に生まれています。新入社員研修での活用がスタートしたほか、社内外の学習コンテンツを組み合わせた研修コースの開発も始まろうとしています。
次の100年に向けて新たな人財戦略を推進
日本有数の総合化学メーカーとして、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域で事業を展開している旭化成。1922年に創業した同社は、時代とともに変化する社会課題に果敢に挑戦しながら、事業ポートフォリオを絶えず変革して成長を遂げてきたことで知られています。
創業から100年を経て事業環境が大きく変わる中、同社は次の100年に向けて挑戦するための戦略的な計画として「中期経営計画2024〜Be a Trailblazer〜」を策定。経営基盤強化の重要テーマとして「GDP(Green、Digital、People)のトランスフォーメーション」を掲げました。この中で「Peopleのトランスフォーメーション」として力を入れているのが各種の人財施策だと人事部人財・組織開発室課長の三木祐史氏は説明します。
「社会で求められるものが刻々と変わる中、変化に適応して先手を打っていくためには、100年の歴史で培った自由闊達な風土やグループバリューである『誠実・挑戦・創造』をベースに、従業員一人ひとりが挑戦し成長し続ける『終身成長』と、グループの多様性を生かす『共創力』の2つの視点で個とチームの力を引き出し、成果に結び付けることが重要です」(三木氏)
従業員が自由に学べる学習プラットフォームの導入を決断
このうち、終身成長の施策の一つとして2021年12月より取り組みを開始したのが、全社共通の学びのプラットフォームの整備です。その背景を三木氏は次のように説明します。
「これまでの研修は職位ごとに一律に実施するものが中心でした。しかし、昨今はキャリア意識の多様化が進み、各事業や職種で求められる実践的な専門性を身に付ける必要性が高まっています。そこで、多様な業務内容や従業員一人ひとりのニーズと志向性に応じた学びの機会をオンデマンドで提供していこうと考えました」(三木氏)
旭化成では、すでに国産ベンダーの学習管理システム(LMS)を利用していました。しかし、「既存のLMSは社内の学習コンテンツのみを対象としており、当社が目指す学びのプラットフォームに求める要件を満たせませんでした」とデジタル共創本部 IT統括部先進IT探索グループ課長代理の桐山誠史氏は振り返ります。
「私たちは“『学びと成長が楽しい』を旭化成の当たり前にしたい”という願いを持って活動を進めていました。これを実現するためには、5つの要件を満たす必要があると考えました」(桐山氏)
それらの要件とは、次のようなものです。
- 社外で提供されるビジネスや一般教養、デジタルなどに関するさまざまな学習コンテンツとのAPI連携機能
- 従業員が自分の学びの状況や実績を自ら確認しながら進められる学習管理機能
- 他の従業員の学習状況についてコメントしたり、お薦めコンテンツを共有したりできるコミュニケーション機能
- 従業員の学びの意欲を高めるためのユーザーインタフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を独自に作り込むことができるカスタマイズ機能
- グローバル展開時に必須となる多言語対応や海外拠点へのサポート体制
外部連携とUIに優れ、製品思想がマッチしたコーナーストーンを採用
これらの要件を基に国内外の主要なラーニングソリューションを比較検討した末、旭化成は2022年4月にクラウド型ラーニングプラットフォーム「コーナーストーン・ラーニング CSX」を選定します。その理由として、桐山氏は3点を挙げます。
「1点目は、当社が外部コンテンツとして利用したいと考えていたSchoo(スクー)との連携を唯一サポートするなど、先進的な機能を意欲的に取り込んでいること。2点目は、そうした外部連携やコミュニケーション機能などを重視する製品思想が、私たちの考えにマッチしていたことです」(桐山氏)
そして3点目は、直感的で使いやすいUIを備えカスタマイズ性も高く、旭化成が求めるUI/UXを追求していけるからだと桐山氏は話します。
同社は「さらなる成長に向けて仲間と共に学び、それぞれの冒険を拍手でたたえ合おう」(三木氏)という思いを込め、コーナーストーンによる学びのプラットフォームをCLAP(Co-Learning Adventure Place)と命名。2022年12月半ばに外部コンテンツとしてSchooと連携したCLAPの社内展開を開始しました。
3カ月半で8割以上が登録。各組織で自主的な学びの動きも広がる
旭化成では、国内のグループ会社に勤める一部従業員約2万人を対象にCLAPの利用をスタートし、今後、段階的に拡大していく予定です。学習意欲が高まるようUIやUXに工夫を凝らし、月1回のメールマガジン発行、既存研修のフォローアップにおける関連コンテンツ紹介といった推進活動を実施したことから急速に浸透が進み、利用開始から約3カ月半でCLAPへのログイン率は81%、Schooへの登録率は43.3%に達しました(2023年3月31日時点)。
「CLAP上で1つ以上のコンテンツの学習を完了した人は64.3%に達しており、初動としては良い状況だと捉えています」(三木氏)
現在は一人のユーザーとしてCLAPを利用している桐山氏は、学びへの意欲が大きく高まったと話します。
「やはり会社から好きなだけ学んでよい環境が提供されるのは嬉しいですね。通勤時間や隙間時間での学習に使っていますし、興味を持ったテーマがあればCLAPに関連コンテンツがないか探し、クイックかつ体系的に学べるようになりました。レコメンデーション機能により、自分が知らなかった世界に興味のアンテナが向くこともあり、視野を広げるうえでも役立っています」(桐山氏)
三木氏は期待を上回る動きとして、個人の学びにとどまらず、各組織で自主的な学び合いの輪が広がり始めたと明かします。
「あるグループ会社では、各自が関心を持った学習テーマを紹介し合う活動が自発的に始まりました。同様の動きがいくつかあり、私たちがCLAPに込めたコンセプトが予想以上に広く受け入れられているようです」(三木氏)
新入社員研修での利用も開始。社内スキル認定での活用も検討
2023年4月からは、新入社員研修もCLAP上で行っています。一律の内容による新人研修を改め、各自の志向性などに応じて研修内容を選択できるようにしたのです。
「新入社員には自分の志向性にあった研修コースを選択してCLAPで学んでもらい、さらに週に一度コース別に学び合いのワークショップも開催します。これを6〜9月、11〜翌年2月の2クールで実施して継続的に学び合うという活動を開始しました」(三木氏)
また、広範な学びには外部コンテンツを活用する一方、旭化成に固有の専門知識は社内コンテンツで学びます。今後、社内コンテンツの充実を図り、業務に必要な各種のスキルに対応した研修コースを、社内外の学習コンテンツを組み合わせてCLAPで提供していくための準備も始めました。「各コースの修了者にはコーナーストーンのバッジ機能で認定バッジを授与し、タレントマネジメントに活用することも検討していきたい」と話す三木氏は、将来的にはコーナーストーンのコンピテンシー機能も活用したいと展望を語ります。
「グループのある企業では、戦略展開において必要となる重要スキルを定義していますが、コンピテンシー機能を使うと、それらをCLAP上の研修コースと関連付けることが可能です。事業戦略と人財育成コンテンツを綺麗にひも付けられるわけです。実現には多くの課題がありますが、それを理想像としてCLAPのチャレンジを進めていきたいと思います」(三木氏)